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スイートコーンの栽培

スイートコーンの栽培
はじめに
スイートコーンはイネ科のトウモロコシのなかの食用、甘味種に属する総称です。雌穂の子実が未熟なうちに収穫して食用とします。メキシコ、ペルー、ボリビアなど中南米地域に広く自生していることから、これらの地域が原産地かと思われますが、祖先植物が明らかではなく起源、原産地ははっきりしていません。新大陸が発見されてから他の国に伝わった野菜なので歴史は浅く、日本への導入は明治以降とされています。
わが国でスイートコーンが一般的に広く栽培されるようになったのは、1950年代にゴールデンクロスバンタムが導入試作され、優良品種に指定されてからのことです。その後、ハニーバンタムに代表されるスーパースイート品種が導入され、圧倒的な人気を博しました。続いてバイカラー品種、さらにスーパースイート品種を改良した強甘味で粒皮の薄いイエロー品種が登場し、現在に至っています。
1.生理・生態
1)温度条件 生育適温は22~30℃で、35℃以上の高温では先端不稔などの障害が発生しやすく、10℃以下ではほとんど生育しない。発芽適温は20℃~28℃で、45℃以上の高温や6℃以上の低温では発芽しない。

2)光条件
C4型植物であるので光合成効率が高く、日射量が多いほど光合成産物が増加する。乾燥は嫌うので水分が十分にあれば日射量が多いほど生産性は向上する。

3)土壌条件
最適土壌はpHは6.0程度であるが、土壌に対する適応性は広いのでpH5.0~8.0の範囲で栽培は可能である。根は深根性なので腐食に富み、土層の厚い団粒構造のよく発達した排水のよい土壌が望ましい。

4)水分条件
深根性で吸水力は強いが、葉面積が大きいので水分要求量の高い作物である。生育期間では雄穂の開花から受粉までの10日間ほどがもっとも水分を必要とする。一方、生育の初期は根が貧弱で多湿に弱いので水分は少なくてよい。

5)雄穂、雌穂の形成、抽出
雄穂と雌穂は同じ株の別の位置に形成される。雄穂は茎の頂部に着生し、雌穂は腋芽に発生する短側枝の先に着生する。雌穂は頂芽優勢によって上節位のものほど生長肥大し、雌穂として完全な機能を持つようになる。

6)開花、受粉、受精
雄穂が開葯し、花粉の飛散が行われると、その後1~3日してから雌穂より絹糸の抽出が始まり、受粉、受精が行われる。開葯が絹糸抽出より早いことから他家受粉率が高い。
同一の圃場内で受粉、受精が完了するには7~10日ほどを要する。

7)キセニアの発現
キセニアとは花粉の優性遺伝子が受粉した際にその胚乳の形質を支配する現象をいう。スイートコーンは黄色胚乳は優性遺伝子のY、白色胚乳は劣性遺伝子のyに支配されている。yy遺伝子をもつ白色品種は自家または同系の受粉ではすべての胚乳は白色となるが、YYの遺伝子をもつ黄色品種の花粉を受精した胚乳は黄色となり、1房のなかに黄色と白色の粒がモザイク状に出現してくる。白色品種を栽培するときは黄色品種の花粉飛散を避けなくてはいけない。ただ、この場合、スーパースイート系同士の交雑では糖度など食味を損なうことはない。
デントコーンやフリントコーンなどの飼料用、工業用のトウモロコシはスイートコーンの種子にキセニアの影響を与え、甘さなど品質の低下につながるので、これらの近くでの栽培は控える。花粉の飛散は200~250mに達するといわれている。

2.作型
1)ハウス栽培
関東以南の地域で栽培されている作型で、農閑期の労力を利用して単価の安定している時期に出荷するのがねらいである。
ハウス半促成栽培、ハウス早熟栽培、小型ハウス早熟栽培などがあるが、パイプハウスの利用が多く、特別な場合以外は加温はしない。
播種時期によってハウス内を内張りカーテンとトンネルを組合わせて保温して無加温で栽培する。1~2月に播種して、5~6月に収穫する。
極早生種の「味甘ちゃん80」が適する。2)トンネル栽培

スイートコーンの栽培 早出しによる収益性の向上が期待される作型で、一重被覆と二重被覆の栽培がある。作付け時期を少しずつずらして、労力の平準化を図るとともに作柄の安定化を目的とする。保温と換気を繰り返すので規模の大きい栽培では、トンネル換気に労力を要する。播種時期が早すぎると発芽障害を起こす危険性がある。
2~3月に播種して5~6月に収穫する。早出しを狙う場合は「味甘ちゃん80」、その後の収穫には「味甘ちゃん」が適する。

3)露地栽培
もっとも一般的な栽培で所要労力も少ないので作付面積を拡大しやすい。北海道の大規模栽培を始め全国的に栽培面積の多い作型である。スイートコーンの収穫適期は1週間足らずなので、労力に合わせて作付面積を定め1週間から10日ずつ播種期をずらして労力の分散を図るとよい。
マルチ栽培は、透明または黒色のポリエチレンフィルムでうねを被覆して地温の上昇を図り、発芽と初期生育を促進して裸地より収穫期を5~6日早める作型である。
「味甘ちゃん80」「味甘ちゃん」「夏まき味甘ちゃん」が適する。

4)露地抑制栽培
露地栽培の晩限に近い時期の栽培で、品薄となる10月ごろの出荷をねらった作型である。直売所などで長期間店頭に置いておきたい品目として人気がある。この時期は台風の襲来、害虫被害など、作柄の不安定な要素を含んでいるが、適切な対応を心がけることで収益の向上が図れる。7~8月に播種して10~11月に収穫する。
雌穂肥大のよい「夏まき味甘ちゃん」が適する。

5)輪作体系への導入
スイートコーンは生育期間が3~4ヶ月と短く、労力もかからず省力作物といえる。イネ科の植物なので一般的野菜との関連する病害がなく、どの野菜とも輪作を組むことができる。吸肥力が高いため圃場に集積された過剰な肥料成分などを除去するクリーニングクロップとしての利用効果が高く、土壌病害対策にも役立っている。

3.栽培方法
1)圃場の選定
スイートコーンは日射量が多いほど高い同化能力と生産力を発揮するので、日当りの良い圃場を選ぶ。土壌は極端な過乾、過湿を除けば適応性は広く、排水がよく、耕土の深い有機物を十分に含んだ圃場がよい。注意する点はキセニアを防止するため、飼料用デントコーンや異品種(白色品種に対して黄色品種など)の栽培圃場から300m以上離れた圃場で栽培する。2)播種
通常、直播栽培が行われている。育苗栽培を行う場合は、スイートコーンは植傷みを起こしやすいのでペーパーポットなどによる育苗で苗齢は15~20日が適当である。
ハウス、トンネル栽培で直播する場合は、地温を確保するために播種の4~5日前までにマルチを敷いて地温をできるだけ上げておく。播種は1ヶ所に2粒ずつとし、2~3cmの深さになるように覆土する。発芽しなかったり発芽が遅れたところは、2本発芽しているところの1本をできるだけ早く補植するか、ペーパーポットなどに補植用の苗を育てておくとよい。

3)施肥

スイートコーンは吸肥力が強く肥料を多くすると生育促進と多収につながる。肥料の吸収は側枝の生長が旺盛になるころから多くなり、雌穂の肥大期に最高になる。施肥量は窒素、リン酸、カリの成分量で10a当り20~30kgとする。一般的には基肥主体の施肥が行われているが、スイートコーンは生育初期に肥料濃度障害を起こしやすいので、窒素とカリは基肥半量とし、残りは3回に分けて追肥として施す。追肥の時期は草丈40~50cmのころ、雄穂の抽出始めのころ、受精終了のころを目安とする。基肥は三要素のほかに堆肥2t、苦土石灰100~120kgを基準に施用する。4)栽植密度
作型によって栽培密度は異なるが、ハウス栽培やトンネル栽培では10a当り5,500~5,700株(本)、マルチ栽培では5,000株、露地栽培では4,500~5,000株を基準とする。5)栽植様式
ハウス栽培は開口4.5mのパイプハウスでは、70cm幅のベッドを3本、70cm幅の通路を2本とる。1ベッドに条間45cm、株間23~24cmの2条植えとする。
トンネル栽培、マルチ栽培は、ベッド幅70cm、通路70cmの2条植とする。条間は45~50cm、株間はトンネル栽培は24~25cm、マルチ栽培は27~30cmとする。
露地栽培はうね幅70cmの1条植で、株間は30cmとする。
スイートコーンの栽培
6)間引き
本葉が2~3枚のころ1ヵ所1株立ちになるように間引きをする。欠株のところはペーパーポットなどで育苗しておいた苗を補植する。


7)温度管理

ハウス栽培、トンネル栽培では播種から発芽後10日間ぐらいは密閉にしても良いが、30℃を超えるようになったら換気をする。ハウス栽培では開花、受精時に高温で乾燥すると受精障害が発生するので注意する。被覆の除去は生育状況と外気温の状況によって行うが、換気量を徐々に大きくしていき、外気温にならしながら除去する。

8)無除げつ栽培
地際部から発生する分げつを除去せずすべて残す栽培方法を無除げつ栽培という。分げつ葉からの養分転流や分げつ枝の雄花からの花粉により受精障害がなくなり、品質の向上や増収につながる。ハウス栽培やトンネル栽培では葉面積の少ない早生品種を使うことから無除げつを行う。遅い作型や中晩品種で分げつが過繁茂となって障害になるようでは除げつし、弱めの分げつを残して栽培する。

9)除房・無除房

スイートコーンの栽培 雌穂は1株に2~3本着生する。スイートコーンは花芽分化、および開花生理からして最上部の房がもっとも大きく、受精も完全に行われる。除房とは、この房を残し次の2番目の房を取り除くことをいうが、除房は労力がかかることから省力の意味もあって、除房を行わない無除房栽培が多くなってきている。
なお、除房をする場合は、絹糸が見え始めたところで、葉を傷つけないように房をつかんで横にかきとる。また、3番目の房はそのままにしておいても影響は少ない。

10)収穫

収穫は早すぎても遅すぎてもスイートコーン本来の味がなくなる。適熟のものを気温の涼しい時に収穫することが大切である。収穫適期は絹糸抽出期から早生種で20~25日後、晩生種で25~30日後くらいで、絹糸が黒褐色に変色し苞先まで完全に進んだころを目安にする。穂の先端部分の皮をはいで、品種の持つ粒の色を確認できたら収穫する。 スイートコーンの栽培
4.病害虫防除
スイートコーンのおもな病害は苗立枯病、倒状細菌病、黒穂病など、害虫はアワノメイガ、アブラムシ、アワヨトウなどがある。なかでも害虫が防除の対象となり、アワノメイガとアブラムシが中心となる。農薬による防除では登録農薬の基準を遵守し、生育ステージの適期に散布する。散布時期としては草丈40~50cmのころ、雄穂の抽出始めのころ、雌穂の肥大期がよい。
アワノメイガの耕種的防除としてトッピングがある。アワノメイガは雌穂での食入被害がもっとも深刻で、雄穂で成長した幼虫が雌穂へ移動食入して被害をもたらす。そこで受粉が完了したと思われる絹糸抽出期(全体の50%が抽出した日)から10日後ころに雄穂を除去するとよい。なお、トッピングには倒状防止の役割もあり、この場合は上部の葉も一緒に除去する。
味甘ちゃんシリーズの使い分け
「味甘ちゃん」は甘みが強く食味がよいことと栽培がしやすいことから各地で人気を博している。この「味甘ちゃん」には熟期の異なる「味甘ちゃん80」「夏まき味甘ちゃん」があり、3品種を使い分けることによって、長い間、味のよいスイートコーンを栽培、出荷することができる。
トンネル栽培で早出しをする場合は「味甘ちゃん80」を使用すると低温時でも発芽がよく揃い、安定した出荷をすることができる。
マルチ栽培で段播きをする場合は、「味甘ちゃん80」「味甘ちゃん」「夏まき味甘ちゃん」と作期をずらして播いていくと収穫時期がずれるので収穫の労力軽減と安定出荷をすることができる。
抑制栽培では株に力があり穂が大きくなる「夏まき味甘ちゃん」が向いている。抑制で播く場合は、台風の時期に重なるので交配後にトッピングを行い風の抵抗を少なくするとよい。
SWEETCORN LINE UP
夏まき味甘ちゃん
さきちゃん
雪味甘ちゃん
味甘ちゃん
味甘ちゃん80
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